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第一章 過去と現在が交差する7

last update Last Updated: 2025-01-09 16:14:25

  *   *   *

はっと顔を上げて時計を確認するともう二十時だ。パソコンに向かって集中して仕事をしていたので気がつけばこんなに遅い時間になっていた。

明日は、COLORのマネージャーとの打ち合わせだ。私が交渉するわけじゃないのに緊張している。

新しい部署に来て一週間が過ぎたけれど、覚えることとやることがいっぱいあってストレスがかかっていた。他の社員はすでに退社して私は一人だった。

ふぅーっと息を吐きだし、右手で肩を揉み首を回す。

「揉んでやろうか?」

コーヒーの香りと一緒に聞こえたのは杉野マネージャーの声だ。誰もいないと思ってリラックスしていたのに突然登場したので慌てる。

「え、いえ……! けっこうです」

「初瀬って案外ピュア?」

……え」

「彼氏とかいるの? あ、こういうのってセクハラになっちゃうのかな……」

ぼそっとつぶやいた杉野マネージャーは、私のデスクの隣に腰をかける。足が長いと感心してしまう。

「彼氏なんていません。私みたいな地味な女は一生独身でしょうね」

「ずいぶん、自虐的だな。可愛いのに」

か、可愛いなんて。大くんに言われてから言われてない。ということは、もう何年も言われてないことになる。私はこの先、恋愛はしないつもりだ。もう、あんなに悲しい思いをしたくない。

「交渉は俺がするから、初瀬はそんなに緊張するなって。早く帰ってしっかり寝て明日に備えろ。な」

諭すように言われたので私は素直に頭をさげた。

杉野マネージャーは自分のデスクに戻ったのを見届けて、私は帰る準備をはじめる。

容姿がよくて気配りもできる杉野マネージャーなら、綺麗な彼女がいるんだろうなぁ。まだ独身で過ごしているのが珍しいと女性社員が噂しているのを聞いた。

「お先に失礼します」

「お疲れ様」

部署を出てエレベーターホールに向かう。

もし、あの時――。

大くんを部屋に入れていなければ今とは違う人生を歩んでいたかもしれない。

恋に怯えることなく、オフィスラブをして、結婚をして子供を産んで。忙しいけれど充実した毎日を送っていた可能性だってある。

タラレバだ。

過去に戻ることはできないし、その時自分で選んできた道なのだからこれからもその道の続きを歩き続けなければならない。

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    「赤坂さんのことが好きでも……両親の言うことを聞かなきゃって思って」「ってかさ、なんで早く言わなかったんだ?」苛立った口調に怖気づきそうだった。「考えて悩んで……私もそう思ったから。それに、これ以上迷惑をかけちゃいけないって思ったの」「迷惑だと? ふざけんじゃねぇぞ」乱暴に私を抱きしめた。赤坂さんの胸に閉じ込められる。かなり早い心臓の音が聞こえてきた。「俺のこと信じろって」「赤坂さん。ごめんね」「バカ」涙があふれ出し、私は赤坂さんにしがみついた。赤坂さんはもっと強く私を抱き止めてくれる。「でも、好きな気持ちには勝てなかったの」「………」体を起こしてキスをされた。すごく優しいキスに胸が疼く。私のボブに手を差し込んで熱いキスに変わっていく。舌が絡み合い、濡れた音が耳に届いた。唇が離れると赤坂さんは今までに見たことない瞳をしている。「久実、愛してる」「……私も、赤坂さんのことが好き」「俺もだ」「今まで本当にごめんなさい」「大好きっ、赤坂さん、大好き」「うん。俺も」私も赤坂さんのために自分のできる限り尽くしたいと思った。守ってもらうだけじゃなくて、守ってあげたい。頭を撫でられて心地よくなってくる。「両親に認めてもらえるように……頑張るから」赤坂さんはつぶやいた。だけど、すごく力強い言葉に聞こえた。「近いうちに会いに行きたい」「うん………」「やっぱりさ、思いをちゃんと伝えて理解してもらうしかないから」「そうだね……」「俺はどんなことがあっても久実を離さないから。覚えてろよ」頼もしい赤坂さんに一生着いて行く。私は赤坂さんしか、いないから。きっと、大丈夫。絶対に幸せになれると思う。私は赤坂さんのことが愛しくてたまらなくて、自分から愛を込めてキスをした。エンド

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』85

    そして、四日になった。前日から緊張していてあまり眠れなかった。化粧をして髪の毛をブローした。リビングにはお母さんがいて、テレビを見ていた。「友達と会ってくるね」「気をつけてね」「行ってきます」家を出ると、まだ午前の空気は冷たくて、身震いした。手に息を吹きかけて温める。電車に向かって歩く途中も緊張していた。ちゃんと、思いを伝えることができるといいな……。赤坂さんに恋していると気がついたのはいつだったんだろう。かなり長い間好きだから、好きでいることがスタンダードになっている。できることなら、これから一生……赤坂さんの隣にいたい。マンションに到着し、チャイムを押すとオートロックが開いた。深呼吸して中へ入った。エレベーターが速いスピードで上がっていく。ドアの前に立つといつも以上に激しく心臓が動いていた。チャイムを押すと、ドアが開いた。「おう」「お邪魔します」赤坂さんはパーカーにジーンズのラフな格好をしているが、今日も最高にかっこいい。私は水色のセーターとグレーの短めのスカート。ソファーに座ると温かい紅茶を出してくれて隣にどかっと座った。足はだいぶ楽になったらしくほぼ普通に過ごせているようだ。「久実が会いたいなんて珍しいな」「うん……。話したいことがあって」すぐに本題に入ると、空気が変わった。赤坂さんに緊張が走っている感じだ。「ふーん。なに」赤坂さんのほうに体ごと向いて目をじっと見つめる。何から言えばいいのか緊張していると、赤坂さんはくすっと笑う。「ったく、何?」緊張をほぐそうとしてくれるところも優しい。赤坂さんは人に気を使う人。「私……、赤坂さんのことが好きなんです」少し早口で伝えた。赤坂さんは顔を赤くしているが、表情を変えない。「うん……。で?」「好きなんですけど、交際するのを断りました。その理由を話に来たんです」「……そう。どんな理由?」しっかり伝えなきゃ。息を吸って赤坂さんを見つめた。「両親に反対されています」「え、なんで?」「赤坂さんは恩人ですから……。 だから、対等じゃない……から……」頭の後ろに片手を置いて困惑した顔をしている。眉間にしわを寄せて唇をぎゅっと閉じていた。

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